ジョブメドレーのアクセシビリティ向上の取り組みと、「プロジェクトをやりきる」文化

タイトル見出し。腕を組んでメドレーロゴの前に立つ小山さんと津野瀬さん

医療福祉業界の人材不足の解決を目指す求人サービス「ジョブメドレー」のアクセシビリティ向上プロジェクトには、 Gaji-Labo もそのメンバーとして参加させていただいています。

この記事では、技術的な課題やプロジェクト進行の困難に直面しつつもプロジェクトを進めていったメドレー社の「やりきる」文化を紹介します。プロジェクト推進に悩む方に役立つインタビューですので、どうぞ最後までお付き合いください。

六本木ヒルズのメドレーオフィスの広い窓の前で、小山さんと津野瀬さんと笑顔で話すGaji-Labo横田

左から、株式会社メドレー人材プラットフォーム本部のデザイン部部長の小山さんとプロダクト開発部グロースチームリーダーの津野瀬さん。Gaji-Labo のフロントエンドエンジニア横田。

お話をしてくださったのは、デザイナー小山さんとエンジニア津野瀬さん。

写真右は、Gaji-Labo の横田。
横田は、このプロジェクトの立ち上げ期からチームの一員として参画させていただき、おふたりと一緒にアクセシビリティ向上に取り組んできました。

「誰でも使える」というプロダクト理念を形に。

———まず、ジョブメドレーのアクセシビリティ向上プロジェクトが始まった経緯を教えてください。

小山さん:実は、8 年も前のことなんですが、僕が入社 1 ヶ月目ぐらいの時にカラーコントラストがおかしいという話があったんですね。
その時すぐには取り組むことができなかったのですが、我々のプロダクト理念に「誰でも使える」というのがありまして。

アクセシビリティに取り組んでいない状態で「誰でも使える」って果たして言えるのかなと考えて、企画書を作成しました。

Gaji-Labo 横田:Gaji-Labo にお問い合わせをいただいて、最初のお打ち合わせが 2024 年の 1 月だったと思います。

そのときは、WCAG 2.1 を指針にしたいというご相談だったのですが、できることから取り組んだ方が、現実的なユーザーのためのアクセシビリティ向上になるのではないかと思って「試験を通すことにこだわらず、まずは配慮という形からスタートしませんか」とご提案しました。

小山さん:WCAG 2.1 を通しますという形で企画書を書いていたのですが、その提案のとおり、WCAG の視覚に関わる A や AA の項目からはじめて、最低限使えることを目指しました。

ジョブメドレーは「あん摩マッサージ指圧師」や「鍼灸師」などの視覚障害の方も多い職種の求人を掲載していながら、その方たちを受け入れる Web サイトになっていなかったんです。

まずは、スクリーンリーダーを使っている方が求人を読んで、応募できるようにしなくては、と考えました。

津野瀬さん:いまは、主要な機能や画面はスクリーンリーダーが使える状態になりました。

全体の 7〜8 割くらいで、これからやることは沢山ありますが、1 年半かけてやっとここまできましたね。

アクセシビリティの専門知識もなかったし、Next.js がわかるフロントエンドエンジニアもいなかった。

津野瀬さん:当時のジョブメドレーは、 Rails 製の典型的な MPA でした。

アクセシビリティに配慮するというのがプロジェクトのゴールであれば、従来どおり ERB でビューを書き、上から被せるだけでもよかったです。

———アクセシビリティ向上のプロジェクトは、フロントエンドのモダン化も同時に行うことになったとお聞きしています。ERB で被せる形にはしなかったということですよね。

津野瀬さん:当時、背景は割愛しますが、アクセシビリティとは別軸で「ジョブメドレーのフロントは、SPA 化が必要だ」という技術的な課題が出ていました。運用から 10 年以上が経っており、既存構成のままでは限界が見え始めていたためです。

私は、技術的負債の解消を進めるプラットフォームのチームにいたのですが、その頃は、「フロントエンドを高い解像度で設計から実装まで引っ張れる人材が十分ではなく、誰がどのように再設計を主導するのか?」と、イメージを持ちきれていませんでした。

会議室でインタビューに答える津野瀬さん

津野瀬さん:そんなところに小山さんがアクセシビリティのプロジェクトを立ち上げると聞いて、これを機に「そのプロジェクトに乗っかって、一緒にフロントエンドのモダン化も合わせてやろう」とプロジェクトに参画することになったんです。

——— Next.js が得意なフロントエンドエンジニアが社内にいなかったとのことですが、アクセシビリティに関する専門知識のある方はいたのでしょうか?

小山さん: その当時は誰もいなかったです。

このプロジェクトをはじめた自分ですら、ぜんぜんわかっていなかったです。

津野瀬さん:実装がわかる人どころか、当時はフロントエンドを得意とするエンジニアがいなかったんですよ。Next.js の App Router するって方針は決まっていても、それがどのくらい大変で、どうやればいいのかも知らなかった。

小山さん: この状況でそのまま取り組むと恐らく事故る。 いや、恐らくじゃなくて確実に事故る、ということはわかっていました (笑)

なので、外部から技術を持った方をプロジェクトに呼ぶというのは決まっていましたね。

津野瀬さん:もし上手くいかずにプロジェクトが事故ったら、社内から強いフィードバックや批判が出るだろうし、これは難しいプロジェクトだなと感じていました。

でも、CTO から「自分がやりきれると思うかつ、チームへの浸透までできるなら、好きにしていい」と言ってもらえたので、それで腹をくくりましたね。

———アクセシビリティの専門知識もなく、Next.js がわかるフロントエンドエンジニアもいなかったスタート地点ですが、どのくらいのプロジェクト期間で見積もられていましたか?

小山さん:結局、このプロジェクトは一年半以上やっていて、今後も継続していくんですが、企画書を通したときは会社全体の開発リソース管理もあって「半年以内でやってくれ」と言われていたんですよ。

作業が半年で終わると見積もっていたわけではなく、別プロジェクトもあるので半年くらいしか猶予が与えられていないという感じで。

笑いながら話す津野瀬さんと小山さん

津野瀬さん:自分も当初はリアーキテクトの監修だけという感覚だったので、3ヶ月くらいでプロジェクトを離れるつもりでしたね。結局は一年半もやってますけど (笑)

Gaji-Labo 横田:Gaji-Labo にお問い合わせをいただいて、はじめてのお打ち合わせから私が参加していたんですが「やりたいことを実現するのに何年かかりますかねえ……きっと一年以上はかかりますよね」ってお話したのを覚えています。

———プロジェクトの立ち上げ時に「かなり厳しいスケジュールで計画されている」というのはわかっていたわけですね。

津野瀬さん:エンジニアの工数を計算してみて、一年どころじゃないくらい時間がかかるとわかっていたけど、社内では「プロジェクトの期間は伸ばせない」と言われている。

普通に考えて無理だけど、やらない選択肢もなかったので、「じゃあ、走りながら考えようか」と考え方を切り替えました。

小山さん:半年後に終わらせるようなスピード感を求められていたんですが、実際に蓋を開けてみたら、最初の 1 ページをリリースするだけで 4 ヶ月かかりましたね。

———外部の力を借りる必要があったとのことですが、Gaji-Labo を選んでいただいたのは何故でしょう?

小山さん:最初の打ち合わせが終わってすぐに社内では「もう Gaji-Labo に決まりでいいんじゃないですか」って言ってましたよ。

津野瀬さん:他にもアクセシビリティに強い会社はあったんですけど、実装まで一緒にやってくれる感じじゃなかったり。

技術があるだけじゃなく、Gaji-Labo は経験がないことがあっても「これは、やったことがないので一緒に勉強しながらやらせてください」って率直に言ってくれたんですよね。

そういう人たちとは一緒にやっていけるなってイメージが湧いたというか。

真剣な表情で話す小山さん

小山さん:フロントエンドの刷新に合わせてデザインシステムもやろうという話もあったんですけど、tobo さん(※ Gaji-Labo 横田のハンドルネーム)から「まずはコンポーネント集に留めておきませんか」と現実的に進める提案をもらえて。

こういう、プロジェクトをより良く進めようとしてくれる姿勢があるのが本当に良いですよね。

Gaji-Labo 横田:Gaji-Labo が大切にしている「事業やサービスを成長させていくチームの一員になる」というスタイルが伝わってるみたいで、嬉しいです。

プロジェクトが始まってからは?

津野瀬さん:最初はあれもやりたい、これもやりたいってモリモリになってるわけじゃないですか。

それを一ヶ月くらいかけて、議論して整理したり、ADR 具体的な方針が固まりました。

Gaji-Labo 横田:最初は、本当に夢が詰まっているというか———やりたいことがたくさんあって。

時間がないからすぐに手をつけるのではなく、キックオフから一ヶ月くらいはしっかりと話し合ったのが良かったですよね。

———プロジェクトが始まってからは、順調でしたか?

津野瀬さん:最初から半年じゃできないことはわかってたんですけど、フロントエンドを Next.js にするのに時間をかけてしまって、1 ページ目をリリースするだけで 4 ヶ月かかって。

どんどん遅れて、半年超えて出したリリースって2 画面ぐらいしかないんですよ。ぜんぜん出せてなくて焦りました。

———技術面で苦労された点はありますか?

津野瀬さん:技術的にしんどかったのは 2024 年の終わりごろですね。

一覧ページの負荷が急にドカンと上がって、Rails のコンテナを増やしても CPU がずっと 99 %に張り付いてて、「え、どういうこと?」ってなったことがあって。

身振りを入れて技術の話をする津野瀬さん

津野瀬さん:これは、総リクエスト数の増加等によってサーバに負荷がかかって耐えられていませんでした。Next.js App Router の導入当時、App Router への解像度も低く、Request Memoization が部分的に効いていない API の設計になっていたり、データキャッシュに関しては、オプトアウトしていたのですがこれを機に、慌てていまのアーキテクチャに合うように設計して導入しました。

今では文章にしてチームに共有するようになったので、問題が顕在化することもなくなりましたが、当時は本当に慌てましたね。

小山さん:開発がカオスになるのは分かってたんで、開発を進めるためにもデザインも早く終わらせないとって焦るじゃないですか。

でも、デザインする時に、その時点ではアクセシビリティの知識が浅い状態でやってるんで手戻りも多いんですよ。今にして思うと、もっと時間かけてデザインも進めればよかったなと思います。

実装まで進んでから、tobo さんから「これ変ですよ」とか「これ抜けてますよ」みたいなこと言ってもらうのが頻発して。

Gaji-Labo 横田:リリースする画面ごとに、チェックツールやスクリーンリーダーを一緒に確認して、エラーの見方とか、スクリーンリーダーの読み上げで気になるところをフィードバックさせてもらいましたね。

津野瀬さん: tobo さんは、WCAG を指針にしながら対応方針について考えてくれるので、その tobo さんのアクセシビリティ知見を AI にとりこんだ tobotobot を作りたいって話してるんですよね (笑)

笑顔でキツかったときの話をする津野瀬さん

津野瀬さん: 他に技術面でキツかったといえば、Google タグマネージャー移行とかかなりしんどくて……

過去約10年分の「このタグ使ってるの?」みたいなのを全画面で整理したんですよ。

一見関係なさそうなクラス属性も「あ、それ計測で使ってます」みたいな。

———そのキツい時期は通り抜けられたんでしょうか?

津野瀬さん:CTO から「順番に全部やるんじゃなくて、ユーザーインパクトあるところを選んで手をつけよう」ってアドバイスをもらってからは、勢いがついて進むようになりましたね。

そこから、さらに 2025 年に入ってから急に進むようになって、PJ 開始 1 年後にやっと慣れてきてブーストかかったみたいな。

2025 年の前半で、画面全体の7〜8 割はカバーされるところまで進みましたね。

Gaji-Labo 横田: 本当に大変でしたね〜 (3 人とも、しみじみ肯く)

津野瀬さん: 本当に大変だった (笑)

今日も tobo さんも含めたプロジェクトメンバーで、ふりかえりとこれからどうするってミーティングをして、「これまでも大変だったけど、これから先も大変だな〜」って話していたところです。

「やりきる」文化:組織を動かすマインドセット

———半年でやってほしいと言われていたプロジェクトが長期化していく中で、社内調整があったと思うのですが、そこは大変でしたか?

津野瀬さん:CTO に「やりきれるなら、やっていいよ」と背中を押してもらっていたので、そこからは「時間はかかってますけど、ちゃんとやり切ります!」で押し切ったところもありますね。

なので、見えないところ(経営会議や事業の定例会議など)でプロジェクトを守ってくれていたと感じていますね。

小山さん:メドレーは「やりきれ」が基本姿勢なんですよね。

「この日までにこれ間に合わないから、この画面はちょっと後に送らせそう」みたいな判断をすることはありますけど、「大変だから、この画面はもう対応しないことします」みたいなことを言ったら、「え、なんで?」って言われる。

チーム全体に「やるしかないから、やるぞ」という前向きなマインドが浸透していたと思います。

津野瀬さん:自分で始めた以上は、ちゃんと全部やりきって「みんなが使えるよ」っていう社内への浸透もセットでやる。

やるだけじゃ、自分がいなくなったときに負債になっちゃう。

だから、みんなが使えるようにまでしてねってことも大切にしてますね。

———社内調整はそんなに大変ではなかった?

小山さん: いやいや、大変ですよ (全員、苦笑い)

やっぱりそれだけリソース投下するってことなんで、「このプロジェクトに人をそんなに投下する価値あったっけ?」という問いに答えないといけない。

PMがそういう社内調整を何度も繰り返しやっていて、本当に大変です。

津野瀬さん:これは個人の勝手な想いなんですけど、報告を受ける側から見たら、「もうこれは無理だ」って雰囲気が出ていて、意気消沈してるプロジェクトに対しては、「どうにか、なんとかならないか?」みたいなムードにならないじゃないですか。

津野瀬さんの話を聞いて大きく笑う小山さん

津野瀬さん:でも、定例ミーティングで「結局、いつ終わるの」って言われても、前向きに「やりきりますから、やらせてください」って言ってると、不満はあってもある程度やらせてもらえる。

コミュニケーションとしては雑だけど、改善策がないときも「厳しい状況ですけど、◯◯してみます」って、なんとかひねり出した改善策を言って、まだ終わらないぞという姿勢を見せてた。

アクセシビリティを「あたりまえ」なものとして根付かせる。

津野瀬さん:7〜8 割のページがフロントエンドの刷新もスクリーンリーダーの対応も進んで、だいたいどこのページに遷移してもリニューアル後の画面になった、みたいなのは気持ちいいですね。

Axe DevTools で画面をチェックしたら、前は 1 画面で 500 ぐらい問題があったんです。それがいまは 2 とか 1 とかなんで。

小山さん:定性的な話ですけど、いまの状態をブラウザで見ると「これ、見やすいな」って思いますよ。

昔のデザインも自分がやったんですけどね。その時は良いと思っていた UI なのに、いまの状態になってから「前の自分は本当にダメだったな。本当に何やってたんだ」って反省しました。

津野瀬さん: この取り組みのおかけで Next.js App Router 扱いたい技術者やa11yに興味がある技術者の採用ができたりもしたので、そういう副次的な効果もありましたね。

——これからについては、どう考えていますか?

小山さん:やっと基礎を作ったというか、スクリーンリーダーに配慮した画面を一通り作りました。

それを発展させるために、開発のリニューアルに関わったメンバーだけじゃなくて、同じような開発ができるように体制を強化していくという、そういった流れが今ありますね。

Gaji-Labo 横田:はじめた頃と今だと、チーム内のアクセシビリティへの向き合い方も変わりましたよね。

コードレビューを通じて、アクセシビリティに関する技術への理解度が高まって、みなさんが興味関心を高めてくれたのを感じます。

津野瀬さん:この取り組みが、自然なものになるまでやりたいと思っていて。

変な例えかもしれないですが、QA をやっていなかった開発チームが QA をはじめたら「やること増えたんだけど」って、なるのは当たり前じゃないですか。でも、慣れたらやめる気は起きないし、やることが当たり前で工数を考えるようになる。

それと同じで、アクセシビリティに配慮するのは普通というか、やっていないのは考えられないって状態になるようにしていこうと。

Gaji-Labo 横田:ふりかえりでも、チーム内から「時間の掛かるよくわからないもの」だったのが「時間が掛かっても、取り組むべきもの」という認識を持てるようなったという声が出ているので、ユーザーのためのアクセシビリティに取り組む体制としても良くなっていると思います。

———「誰でも使える」というプロダクト理念は、もともとアクセシビリティを意識して作られたものだったのでしょうか?

小山さん:いえ、「誰でも使える」という話自体はアクセシビリティを意識したものではなくて、それが必要なプロダクトだからという理由です。

今後、労働人口がどんどん減っていくのに、高齢化が進んでいくとなると、医療を必要とする高齢者を支えるための医療従事者が足りなくなっていくことになります。

真剣な表情で話す小山さん

小山さん:つまり、今の医療従事者だけでは足りないので、他業界から医療への転職をしていただくとか、たとえば出産のようなライフイベントによって一時的に医療の仕事から離れた方、そういった方たちを医療のお仕事に再度就いていただけるようにしていかなくては、我々が取り組んでいる社会課題は解決しないんです。

そういった社会問題の解決のために「誰でも使える」必要があり、その考えで作られたプロダクト理念なんだと理解しています。

まとめ: 技術的な挑戦をやり続けるには

六本木ヒルズのメドレーオフィスの広い窓の前で、笑いながら話す三人。津野瀬さんとGaji-Labo横田のふたりが笑顔で小山さんを指さしている

「誰でも使える」という理念を実現するために、技術的なチャレンジを進め、さらに「やりきる」文化によるプロジェクト推進が必要です。

このプロジェクトの進め方は、多くの企業にとって参考になる事例だと思います。

あらためてお話をお聞きして、Gaji-Labo も引き続きジョブメドレーというプロダクトの価値を高める一員として支援を続けていければと感じました。

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