AI活用に学ぶ、チーム開発におけるコミュニケーションの原則(後編)
AI と人間は似ているところもあれば異なるところもあります。今回の記事では AI と人間の相違点に着目して深掘りしてみたいと思います。
Gaji-Labo ではチームによる成果を最大化するためにコミュニケーションを重視しますが、その前提条件となるのが「必要な情報を正確に伝えること」です。
コミュニケーションという文脈において、AI と人間はどこがどのように異なるのか。その差異を理解することで、人間ならではのコミュニケーションの価値と、チーム開発におけるコミュニケーションの原則を探ります。ここで焦点をあてたいのは、「より大きな成果を生み出し続けるためのヒント」です。
前回の記事では、AI と人間のコミュニケーションの共通点について取り上げているので、関心があればそちらもご覧ください。
それでは早速、AI と人間の相違点について考えていきましょう。
暗黙知と文化的背景
人間と AI では、言語化されていない文脈の扱い方が異なります。人間はその活用が比較的得意ですが、それに依存することは危険を伴います。
AI は明示的な情報を活用する
AI に何かを指示するとき、わたしたちは必要な情報を言語化して渡します。渡す情報が曖昧だったり不足があったりすれば、期待通りの結果は得られません。 AI は渡された情報と、自力で取得可能な情報を元に推論することはできますが、人間のように環境情報や経緯を把握したり、行間を読んだりして判断を行うことが得意ではありません。というより、人間がそういった言語化が難しい情報を AI に伝えることが非常に困難なのです。
この制約はある意味で健全と言えます。すべてを明確に伝えることが必要となるため、自分の考える整理をする良い機会になります。
人間は暗黙知や文化的背景を交換する
一方で、人間同士のコミュニケーションでは、言語化されにくい暗黙知の交換が頻繁に行われ、判断材料として活かされます。
例えば、エンジニアがプログラムコードに気持ち悪さを感じる時、それは明確なルール違反というよりも、経験をもとに「保守しにくいコードの匂い」を察知していることが多いでしょう。責任が曖昧、将来的に問題になりそう、類似した設計で失敗した経験がある、などといった言語化が難しい違和感をもとにレビューをおこないます。
あるいは、プロジェクトマネージャーが「最近チームの雰囲気が良くないな」と感じる時、それは具体的なデータから判断しているのではなく、会話の間や返信の速度、ミーティングでの表情など、複数の微細なシグナルから総合的に判断することができます。
しかし AI にはこれらの信号を察知するためのセンサーが発達していないため、コーディングルールやガイドラインに則っていればそのコードは問題がないとし、タスクの進捗に遅延がなければそのチームは順調だと分析するでしょう。人間が経験などから当然のように感じ取っている事柄でも、AI に理解させるには明示的に言語化する必要があります。
暗黙知の危険性
チーム固有の暗黙知はコミュニケーションコストを削減し仕事をスピードに乗せることがありますが、しかし、言い換えればそれは属人性の塊です。属人性は新規メンバーにとっての参入障壁となったり、誤解や思い込みの温床となったり、特定のメンバーが動けなくなった時に業務をブロッキングしてしまうなど、多くの危険性をはらんでいます。
暗黙知の全てが言語化可能なわけではありませんが、可能なものは出来る限り文書化してメンバーが参照できる場所に置いておくという工夫が必要です。そうすることでチームのコンテキストが構築され、認知負荷が軽減され、チームとして成果を生み出しやすくなるはずです。AI がコンテキストをたよりにアウトプットの精度をあげることができるのと同様に。
そうは言うものの、知らず知らずのうちに凝り固まってしまうのが属人性です。チームのあちこちに溜まってしまったそれを払拭するには、例えば新規メンバーが参入した時に「わからなかったこと」や「困ったポイント」をログに残して、都度文書化していくことなどが効果的です。オンボーディングと同時にドキュメントの整備と点検が行えて、一石二鳥ですね。
主体性と継続的学習
AI と仕事をする時、わたしたちは具体的な背景情報とともに明確な指示を与えます。そのタスクに必要な情報を事細かにわたすことで、AI の作業精度は向上します。方法を伝えれば AI はその通りに働き、指示したわたしたちはその結果に満足します。
しかし、人間にタスクを依頼する時はキッチリ情報を揃えて渡すより、ある程度の余白があった方が主体性を引き出しやすいことがあります。そこで獲得したいアウトカムは伝えつつ、具体的なアプローチは相手の思考に任せます。
例えば「こういう方法でこのように問題を解決して」ではなく、「こういう成果を目的として問題を解決して。方法は任せます」のようにマクロによった依頼の仕方を選びます。
そうすることで相手は自律的に方法を考えることができます。当然、指示をする側よりも優れたアイデアを持っていることも多いでしょう。そして得た知見、経験は他のタスクでも活かされることになります。
さらに、AI の学習はアウトプットしない限りはセッション内に閉じているのに対し、人間の学習は永続的です。自分が他のタスクで活かせるというのは勿論、知見を共有すれば他のメンバーも活用することができます。これはチームで持続的に成果を出し続けるための原動力につながります。
効果的なチーム開発のための実践的原則
ここまでコミュニケーションという文脈で AI と人間はどう類似していて、どう異なるのかを考えてきました。そこから学べる事柄を踏まえ、チーム開発におけるコミュニケーションの原則として言語化し、整理してみましょう。
1. コンテキストを共有し、更新する
プロジェクトの背景情報は、チームのコンテキストとしてドキュメント化し、チームメンバーの誰もが参照可能な場所に共有しておきましょう。ドキュメントはプロジェクトの方針変更や新しい意思決定に応じて常に最新の状態にアップデートされる必要があります。
2. 主体性を引き出すための余白を大切にする
具体的な背景情報は必要なものですが、人間に対しては、ある程度の余白を持たせた方が主体性な思考を活かすことができます。情報を大量に渡しすぎず、「やりやすい方法で進めて」といったように柔軟性をもってメンバーの主体性を引き出す工夫をしましょう。
3. 暗黙知を可視化する
暗黙知を発見したら、可能なかぎり明文化してチームのコンテキストに追加しましょう。
暗黙知は「当たり前」のような顔をしてチームのなかに潜んでいて、発見することは容易ではありません。しかし例えば新しいメンバーのオンボーディングなどは、彼らの視点を活かして暗黙知を探し出す絶好の機会となります。
4. 継続的に学習する
ナレッジをチーム内で共有できる仕組みを作りましょう。
例えば定期的な振り返りの時間を確保したり、学び得た知見をいつでも蓄積していける場所を整備して、チームのだれもがそこに記録し、活用することができるようにします。仕組み化することで、そこに記録された知識や経験は、チームを超えて活用される大切な資産になります。
まとめ
前後編にわたり、AI と人間の共通点や相違点について考え、そこから導き出される、より高い成果を生み出すためのコミュニケーションのヒントを探ってきました。
主体がなんであれ、コミュニケーションの基礎はコンテキストであると考えます。そのコンテキストを有効に活用し、チームが生み出す価値を最大化できるような有機的な工夫が大切です。この記事で挙げたような原則を意識しながら、プロジェクトを前進させるコミュニケーションを構築していきましょう。
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